1. 理事からの相談

2020年9月20日

Lounge Koto

「銀座四丁目」の交差点角にある和光時計台の近く、細い通り沿いにある昭和レトロ感の漂う雑居ビルの前に、一台の黒塗り4人乗りレクサス LS600hL EXECUTIVE package が静かに止まりました。急いで出てきた運転手が後部左ドアを開け、初老の恰幅の良い男性がゆっくりと降りてビルに一人で入って行き、車はまた静かに発進しました。

 ビル奥の狭いエレベーターが3階に停止し、左側の廊下の奥から2軒目のドアの前に男性は立ち止まりました。そこには表札はかかっていません。しかしドアの右側の壁に付けられた8インチサイズのプレートに右手のひらを置くと、ドアの錠が開く音がし、男性は中に入りました。

「万屋(よろずや)理事、いらっしゃいませ。」と、出迎えたのはホワイトの立ち襟シャツにレッドのスーツを着こなし、長い髪を結った栗原美雪です。意識して抑えた美しさと凛とした雰囲気、しかし柔らかい笑顔で相手を緊張させない賢さも持つ、大日本生命の会長が逸材と言ってなかなか手放したがらなかった理由が良くわかります。

「おー、みいちゃん、来たよ~」と、顔をほころばせた万屋理事は栗原にハグをしようとしますがスルリとかわされ、部屋に誘導されて中央に置かれたソファに腰掛けました。

「いらっしゃいませ。」と声をかけたのは、濃いブラウンのジャケットとパンツに薄いグレーのベスト、ホワイトカラーのシャツにレッドのネクタイを締めたファミリーオフィス銀座の面々です。しかも、伊勢信一郎はバーカウンターの中でウエルカム・カクテルをシェイクしているではありませんか。

 そう、ここはファミリーオフィス銀座と隣接する、顧客の公益財団法人みやこ財団理事のためのエグゼクティブ・クラブラウンジ(Executive Club Lounge)「古都」なのです。

 ファミリーオフィス銀座の顧客は超富裕層でありかつ家名を重んじなければならない層であり、家族にも相談できない事業や相続の悩みを持つこともあります。そのような場合に、銀座に飲みに行くと称して立ち寄れる秘密の憩いの場を提供しているのです。何しろ、運転手が奥様に言い含められており、行動が監視されていることも多々あるのですから。

「きょうは何かお悩みのことがあるのね。」と、万屋理事の隣に腰掛けて質問する栗原。

「そうなんじゃ。わしの幼なじみが名古屋で医療法人を経営しているが、その長男が出来が悪くて医師国家試験に何度受けても通らず、仕方ないのでMS(メディカルサービス)法人を作って社長をさせているんじゃ。」

「病院は優秀な次男と長女がそれぞれ外科部長と内科部長を務めているんじゃが、この長男が嫉妬してな。見返すつもりか、何かフランス製の手術支援ロボットの投資話を持ちかけられてその気になっとるそうで、幼なじみが心配してなあ。」と、万屋理事はウエルカム・カクテルをがぶっと飲んで、うまいと呟きました。

「みいちゃん、伊勢くん、この投資話が大丈夫か調べてもらえんか。」

「わかりました。では、この調査はリーダーの栗原にさせましょう。」と、伊勢信一郎は依頼を受けました。

「私、頑張りますね。」と、栗原がにっこりかわいく言いました。

「おー、みいちゃん、頼むよ~」と、万屋理事はデレデレです。

 壁際に立っている金田俊哉が隣に立つ坂本金造に「チーママの出番ですね。」とささやき、坂元はうなずきました。

解説

 開業医の純資産の動きから医療法人設立を検討する時期、医療法人でできること、さらにMS法人の設立について学びましょう。

 医療法人とMS法人|開業医の純資産と営利活動・節税