10. 病院用地の調達

生産緑地のイメージ

 社団医療法人天鯱会の理事会は提案議題へと進み、不動産担当理事中抜一計(なかぬきいっけい)が立ち上がり発言します。

 中抜理事は大阪南部の泉州出身で本人は普通に喋っているつもりでもケンカしているようにしか聞こえません。年は43の後厄で不動産業界上がりです。Vゾーンが広くピンストライプの入ったシルバーグレーのダブルスーツにエルメスのシルクドットタイを締め、左手首には定番のロレックスディトナGOLDとパワーストーンの水晶ブレスレットを2本もはめています。見えませんが首にも金のコインネックレスをしているのでしょう。何かあれば質屋に行けば当面食いつなげるというスタンスです。これまで東京院、大阪院の開業場所も決めた敏腕さは理事長も認めるところですが、高価な物を身に着けても漂う下品さは不動産屋か金貸し特有のもので他の理事から浮いております。

「このたびは名古屋本院の病院用地として最適な土地情報がありますんで提案させていただきますわ。この土地情報は外科部長でおられる蛸酢御園(たこすみそ)理事が信頼できる筋から入手されたもんなんです。」と、隣に座る次男の手柄であることを強調します。

「手元の資料1を見てもらえまっか。」と資料をかざす中抜理事はワイシャツの袖口のカフスも金貨という念の入りようです。

「ここに載っとる土地はまだ販売前の物件なんですわ。現在生産緑地の指定を受けている農地で売りに出てまへん。しかし地主が高齢で農地を耕すのが難しくなり、また子供が後を継ぐ気がないという情報を蛸酢御園理事がその豊富な人脈のうちの信頼できる筋から入手されましたんで、この土地を購入し新病院の用地に転用することを提案させていただきます。」とまた次男を持ち上げます。

 確かに名古屋市内でも一等の高級住宅地昭和区南山町(みなみやまちょう)の最寄り駅名古屋市営地下鉄鶴舞線いりなか駅西側徒歩5分にある主要幹線道路の交差点角地という素晴らしい立地で、現状果樹園となっています。よくぞこんなまとまった土地が市街化区域内農地として開発されずに残っていたものだと蛸酢理事長は感心しましたが、話がうま過ぎるようにも思えました。

 また、これまで大都市駅前に病院を展開し「診療待ちなしすぐタコス」のTVCMで人気を得ていた蛸酢ホスピタルの診療コンセプト及び来院患者層と明らかに異なる大邸宅街の立地でしかも病床数増加になるのですから、医療コンサルタント会社の診療圏リサーチも必要になるし慎重に検討しないといけないと古参の財務担当理事をチラッと見ました。

 この古参の財務担当理事堅威金路(かたいきんじ)は、蛸酢診療所が開業資金融資を受けた信用金庫の融資担当者だった男で、借り手の立場に立って融資相談を受けた誠実な人柄を蛸酢理事長がいたく気に入り、診療所の事務長として引き抜き厚く信頼を寄せて蛸酢ホスピタルの黎明期から二人三脚で来たのです。年は60歳手前の小柄で細身のいつも柔和な笑顔を浮かべている男ですが、真面目で人と財務を見る目を持っていると蛸酢理事長は認めております。

 堅威理事が手を挙げて、「確か生産緑地は耕作を辞める時は先ず名古屋市に買取申請をするはずですが、それは大丈夫なんでしょうかな。」と探りの質問をします。堅威は以前から中抜理事の扱う不動産取引での金の出入りに疑いを持っているのです。

「この農地は2022年で生産緑地指定から30年経ちますんや。他にもドっと生産緑地が売りに出るやろうから名古屋市も全部は買えんやろと思うんやが、その策も練ってありますんや。」と中抜理事はまた不審がられるようなことをペロッと言いました。

「コメダの本店があるだがや。」とシロノワールを食べ終わった蛸酢一杯がボソっと呟きました。理事長がお前は余計なことを言うなと睨みましたが全く気付いておりません。

  天鯱会では現在、蛸酢理事長の長男でMS法人代表取締役蛸酢一杯(たこすいっぱい)の教育係である財務担当理事の堅威金路と次男で外科部長蛸酢御園(たこすみそ)のコバンザメである不動産担当理事の中抜一計の代理戦争が勃発しようとしているのでした。

解説

 三大都市圏内での生産緑地の2022年問題について学びましょう。

 生産緑地の2022年問題