5. 国土防衛会議

人口砂嵐のイメージ

 東京都千代田区麹町一丁目、新宿通り「半蔵門」交差点の近くに立地し皇居と秘密の地下通路でつながっている公益財団法人みやこ財団ビルでは、地下2階の特別会議室で国土防衛会議が開催されています。この特別会議室は馬蹄形式の会議テーブルが二重になっており、総80席もありますが、議長の榊理事長以下財団理事と官邸の各大臣、各省庁事務次官級の役人が列席しており、末席にファミリーオフィス銀座代表 伊勢信一郎の姿も見受けられます。

 先ず、榊理事長に指名された防衛大臣が居心地悪そうに立ち上がり列席者に頭を何度も下げ、ずれた眼鏡を左手の人差し指で押しました。次期総理も噂される才媛ですが、眼鏡の奥の長いつけまつげが痛々しく見えます。

「防衛大臣の今田友実(いまだともみ)でございます。みやこ財団の理事の皆様方には国防へのご協力感謝申し上げます。では、半島情勢についてご報告させていただきます。ご存知の通り北の金朴恩(キム・パクウン)委員長は中国西部の新国家に亡命しましたが、その後の北は中国主導の新政権が発足し、核の完全放棄、南との統合に向けて半島は進み始めております。なおこの亡命についてはG7も了解済であります。そのためアメリカにとっての極東の防波堤は今後は日本のみが担うこととなります。政権としてはパック3の配備など防衛予算の大幅な増額が必要やむを得ないとの判断ですが、果たして国民の支持を受けられるかが問題です。」と、今田防衛大臣は次官より渡された原稿を持つ手を僅かに震わせながら、緊張した顔で報告します。

「間が悪いと申しますか、政権は国有地払い下げ問題、自衛隊の日報隠し問題で野党から厳しく糾弾されて支持率をすこぶる下げています。」と、今田防衛大臣は列席の内閣官房長官の顔色をうかがい、いかにも困ったという表情をして述べました。

 榊理事長は一旦今田防衛大臣を着席させ、内閣官房長官を指名します。ゆっくりと両手を大きな馬蹄形の会議テーブルに付いて立ち上がった内閣官房長官 賀須吉英(がすよしひで)は、慎重に言葉を選びながら次のように発言しました。

「みやこ財団の皆様方には我が国の為にご尽力頂き、総理に代わり感謝の意を述べさせて頂きます。さて、極東の防衛ラインとしてパック3ならまだ良いのですが、アメリカは日本に核兵器の保有を強いてくるのではないかと危惧しております。我が国が最初に原爆を投下された被爆国であり、国民の同意を得られないことは十分承知の上で、あのタロット大統領なら緊急に核配備の決断を迫ることも有り得ます。」

「電磁パルス(EMP)核ミサイルの配備と考えて良いのですかな。」と、榊理事長。

「その通りです。非致死性攻撃なので心理的抵抗が少ないだろうとタロット大統領は強硬に主張することが予想できるのです。」と、賀須内閣官房長官も苦渋の表情で答えます。

 榊理事長は再び今田防衛大臣を指名します。

「では続けさせて頂きます。こちらは金朴恩委員長が亡命した中国西部の新疆(しんきょう)ウイグル自治区カシュガル地区内に独立宣言した国家でありますが、その中心部をアメリカ軍事衛星が撮影した画像でございます。」と、今田防衛大臣は議長の榊理事長席の後方壁に設置された300インチのモニタースクリーンに投影された画像をレーザーポインターで指し示します。

「なんだ、全然見えないじゃないか。雲に覆われているのか。」と、どよめく声。

「いえ、黄砂による砂嵐が発生しているものと思われます。では、我が国の偵察衛星が連続撮影した画像をご覧頂きます。」

「独立国家の立地する新疆ウイグル自治区は北南西の三方を山脈に囲まれ、非常に乾燥した温帯砂漠気候ですので、タリム盆地で黄砂が発生し、空を覆っているものと思われます。タクラマカン砂漠と申し上げた方がお聞き覚えがございますでしょうか。」

「ただ、黄砂は風に流され、東部や韓国、日本にもたどり着くのですが、ご覧のようにこの黄砂は砂嵐となり一定の地域を巡回しているように見えます。」と、今田防衛大臣は連続撮影画像を分析します。

「その砂嵐に人工的な力が考えられ、しかも何かを隠している、と言うことでよろしいですか。」と、榊理事長は確認します。

「その通りです。どのようにしてこのような砂嵐を発生させているのかは分かりません。しかも隠されているのは何がしかの建造物でしょうが、位置も形も大きさもまだ判明しておりません。ただ、世界中から集められているCNT(カーボンナノチューブ)もどこかに利用されているのでしょう。」

「潜入捜査しろよ。」と、列席者の中から大きな太い声が響きます。

「万屋理事、発言は指名を受けてから立ってするように。」と、榊理事長が注意します。万屋理事は相手が誰であれお構いなしです。

「ではこの件は進捗状況を次回に報告頂きます。」と、榊理事長は次の議題に進めます。

解説

 朝鮮半島情勢が動くなか、極東の防波堤の役割について学びましょう。

 極東の防波堤|電磁パルス(EMP)核ミサイルの配備