7. 一帯一路

タリム盆地から眺める天山山脈

「多国籍犯罪企業 WSSPは一方でウイグル独立を影で操り、もう一方で手術ロボを世界中に普及させようとしている。また、国土と水源の買収も進めている。一体、彼等は何が目的なのだ。」と、賀須吉英(がすよしひで)内閣官房長官は腕を組み、吐き出すように低い声で呟(つぶや)きました。

 榊理事長は伊勢信一郎に目配せし、伊勢は次のように答えました。

「WSSPと中国が協力関係にあることは、ウイグル独立を中国が容認していることで分かっております。中国には新シルクロード構想『一帯一路』という野望があります。しかし、イスラム教徒であるウイグル民族を厳しく抑え込み改宗まで迫っていたことが判明し、宗教弾圧として世界中から批判され、この構想の妨げにもなっていました。」

「引き金は東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の中国全土へのテロ攻撃勃発でしょう。WSSPは、頭を悩ませた中国国家主席 習風山(シュウ・プーサン)に対して、『新疆(しんきょう)の土地とウイグル民族を表向き開放すれば、その代償として朝鮮半島を手に入れ、世界の批判もうまくかわして『一帯一路』が実現できるようにしてやる。』と、持ち掛けたのだと考えられます。」

「そしてウイグル自治区をAI監視システム『王網(おうもう)』による人民支配の実験場にしたのです。ウイグル民族の人物画像及び医学的情報、即ち血液型、DNAや指紋、虹彩などを採取して瞬時の人物特定、管理統制に用いていたと考えられます。そうすると、WSSPの目指す手術ロボの全世界への普及は、各国の要人を含む人類の生体データ採取を通じて地球を彼等のAIの管理統制下に置くことを目的としているのかもしれません。」と、伊勢信一郎は二重の馬蹄形式のテーブルを取り囲む国土防衛会議の出席者を見渡してバリトンの素晴らしい声を響かせて述べました。

「いや、中国は『一帯一路』の最先端プロジェクトとして『中国・パキスタン経済回廊(CPEC)』を進めているではないか。新疆ウイグル自治区カシュガル地区を手放しては、この経済回廊は成り立たなくなってしまうのではないのか。それに、石油から天然ガスにシフトしつつある中国にとって、ウイグルは大切なエネルギー産出地でもある。そんな地を自ら手放すのか。」と、交能次郎(こうのじろう)外務大臣が手を挙げるのも忘れて思わず荒げた声で発言しました。

「CPECについてはインドがかなり警戒をしております。中国が経済協力を隠れ蓑に軍事力拡大を進めていると懸念しているのです。それゆえ、中国から独立した新国家がパキスタンと経済協力するという形でインドとの調整を図ろうとしているのかもしれません。中国はあくまで経済圏の拡大が『一帯一路』の目的であると示すことで、インドやロシア、ユーロをも含む圏域を構築したいのです。またエネルギー問題に関しては、中国はWSSPと密約を結んでパイプラインを確保していると推測されます。」

「さらに、この新国家に『国際金融センター』を設置し、亡命した金朴恩(キム・パクウン)がそれに関与するという情報を、手術ロボ投資に潜入している栗原リーダーが入手しております。」と、伊勢は交能外務大臣に答えました。

「つまり経済圏の構築と人類の管理統制を担うAIが砂嵐で隠されたタリム盆地に密かに建造されているというわけじゃな。」と、議長の榊理事長が付け加えます。

「それだけ中国は本気であり、WSSPはそこにつけ込んでいるのです。」と、伊勢は頷いて述べました。

「恐ろしいことだ。」と、賀須内閣官房長官はため息をつきました。

「タロット大統領はアメリカに経済的に利するものがあるなら、そこに軍事力や悪の気配が感じられても、『一帯一路』に参加すると言い出しかねません。日本の将来のため、日本政府の取るべき道を見誤らないようにしなければならないのです。」と、榊理事長がまとめました。

解説

 AIによる監視・管理社会の実現と世界で進む経済圏域について学びましょう。

一帯一路と中国・パキスタン経済回廊(CPEC)|AI天網監視社会の功罪