14.恩師との再会

京の花街

 京都市上京区、市内を南北に走る烏丸(からすま)通と東西の今出川通の交差点、赤レンガ建築の美しい同志社大学今出川校地の南向いに、京都御所とそれを囲む広大な国民公園である京都御苑があります。約5万本の樹木は紅葉も進み、約91万平方メートルの敷地内には多くの市民と観光客が訪れています。

 その中に伊勢信一郎の姿がありました。ベージュ色の丸首のセーターに草色のチノパンツという普段見られないラフな格好をしています。彼は学生時代に京都で暮らしたのです。鴨川をはさんで東側、百万遍にある大学で国際金融論を専攻し、その後長らく海外生活を送りました。そして帰国後もオフィス開設に忙しく、本当に久しぶりに戻ってきたのです。
「懐かしい、何もかも。」と、若かりし時代の思い出が走馬灯のように彼の心にこみ上げてきます。

 御所の朱色の柱の承明門から公式儀式場であった紫宸殿(ししんでん)、明治天皇が東京行幸されるまでの居所であった御常御殿(おつねごてん)を拝観し、その後今出川通を東へ、母校の正門から百年時計台を見上げた後、哲学の道を紅葉を楽しみながら散策しました。

 その夜、三条通を南へ、鴨川と木屋町通の間の花街先斗町(ぽんとちょう)の鴨川を眺める京会席の一室で、上品な黒の3つボタンのスーツを着て、クリーム色でペイズリー柄の、シルクのネクタイを締めた彼は恩師と再会しました。秋になり川床に出れないのがとても残念です。

「榊先生、ご無沙汰しておりました。」と、両手を突きます。
「こら、大の男が軽々しく頭を下げるな。わしの方が無理を言ったんじゃから。」と、京帝大学経済学部東南アジア経済研究センター名誉教授 榊周治が諌めます。細いが背筋がピンと伸びたとても88歳とは思えない矍鑠(かくしゃく)たる老人です。薄い緑色の紬の着物に濃い茶色の羽織と袴が良く似合っています。

「まあ、一杯いけ。」と、差し出された2合の熱燗を両手で持つお猪口(ちょこ)で受けます。
「ただ、探したぞ。まさか「伊勢」などと名乗っているとは思わなんだからな。」
「そんなに家名を名乗るのが嫌なのか。」と、笑いながら聞きます。
「申し訳ございません。」と、伊勢。
「まあ、重荷だからな。それはわかる。しかし、我々が君を選んだのは単に優秀であるからだけではないのだぞ。」
「分かっております。」といい、杯を返しました。

 会席料理が運ばれた後、人が引くのを待って本題に移ります。

「それでだ、兵庫県の山林を調べてほしいのだ。」

解説

 不動産の取引、運用、保全の前提となる基礎知識として定義と種類を学びましょう。

不動産の基礎知識