17.宝塚にて

2021年9月14日

阪急電車と宝塚大劇場

 阪急宝塚駅に到着したホームでは、「すみれの花咲く頃」のメロディーが流れていました。とたんに宝塚歌劇の風が吹いたようです。
「うーん、歩いている若い女性がみなタカラジェンヌに見えてくるなあ。」と八造がうれしそうに言います。確かに女学生は髪を後ろでお団子にして、とても姿勢よく歩いているように思えます。宝塚音楽学校の生徒でしょうか。
「でも駅は広くなってきれいになった。以前に来た時はこんな立派じゃなかったけどな。」
坂元八造さんの奥さんは京都出身で、帰省した際に宝塚歌劇を観に来たことがあったのでした。

「坂元さん、こっちです。こっち。」と金田くんが手招きしています。阪急宝塚駅とJR宝塚駅は高架の歩道橋でつながっており、その間にバスロータリーがあるのです。そこで待ち合わせの約束でした。二人は2階の改札口を出て階段を降りロータリーに出ました。すぐ横のタクシー乗場に停車しているのも「阪急」と行灯とドアに書かれた真っ黒のタクシーです。

「あれですかね。」と金田くんが指差した先に、大きなベンツのテールが見えます。少し濃い目のイリジウムシルバーの SクラスAMG(アーマーゲー)でしょうか。セダンの様ですが 4本のクワッドエキゾーストパイプがいかつさと悪さをかもし出しています。
「俺、あんなの恐くて乗れないよお。」と、めったにタクシーも乗らない坂元は言いました。
「でも、不動産屋だったらあれぐらい乗っててもおかしくないでしょ。」と、AMGに乗れると喜ぶ金田。

「お前さんたち、伊勢さんとこのもん(者)か。」と、急に後ろから呼ぶ声に振り向くと、こちらもごま塩シルバーの髪の小柄なじいさん、失礼老人が、よれよれの灰色のジャケットを着て立っていました。
「はよこっち来てや。ここは止めたらあかんとこやからな。」と言う老人の横には、これまた老人の車、いやクリーム色のビンテージカーが止まっています。

「えっ!」と、揃えたように二人が絶句。
「あっ、すごい。これはべレットちゃんじゃないですか。」と、坂元が信じられないという顔でそのビンテージカーに駆け寄ります。
「何ccですか。」
「最初の1500じゃ。」
 いすゞべレットは昭和38年に販売開始した、小型で角のとれた卵をイメージしたデザインで人気があり、日本発のGT(グランドツーリスモ)モデルもありました。

「ちゃん?こんなのが現役で走っているなんて。」と、興奮する坂元を見ても、金田はこんな車と信じられない様子です。
「新車で買うて、ずうっと一緒じゃ。」と胸を張る老人。
「あの、すみません。ふ、深田さんじゃないですよね。」と、「じゃない」と言ってほしいと願って金田がおそるおそる聞きます。
「もちろんわしじゃ。早よ乗らんか。」と、二人に促します。
 坂元は我先にと助手席に乗り込み、金田はうそだろという顔で渋々と坂元の後ろのシートに乗りました。膝がつかえて窮屈そうです。

「深田さん、よろしくお願いします。」と、坂元。
「これからどこへ。」
「先ずは、宝塚ホテルへ行こか。腹減ったしな。」と深田がアクセルを踏み、重そうに走りだしました。

 阪急宝塚駅から武庫川を南へ渡って一駅の阪急宝塚南口駅前に、創業89年の薄クリーム色の外壁の宝塚ホテルがあります。客室総数129室で、館内は大正時代の雰囲気漂う、静かな空間を保っています。赤い絨毯が印象的です。その1階のレストラン・ガーデンで3人は昼のバイキングを食べています。

「俺、まだ新幹線で食べた弁当が胃に残っているよ。」とあまり箸の進まない坂元を尻目に、金田はさすがにたっぷり皿に盛ったおいしそうな料理をきれいに平らげ、お替りに行こうとしています。

「まず、これを見てんか。」と、老人とは思えぬ食欲を見せた深田が、テーブルの上に紙のたばを乗せました。
「これは神戸市北区東有馬町の周辺の土地価格や。レインズに載っとる売り出し中の土地価格と成約済みの価格の両方やで。」

(注)作品の宝塚ホテルは移転前のものです。現在の新宝塚ホテルは宝塚大劇場に隣接しています。

解説

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 不動産の5価格評価