23.しぶがき銀行との交渉

BANK

 神戸電鉄有馬線「有馬温泉」駅から一駅の「有馬口」駅で三田線に乗り換え、二駅目の「岡場」駅で川西達郎は降りました。駅から徒歩5分の人通りの少ない通り沿いに、外壁の塗装があちらこちら剥がれ落ちた昭和建築3階建の、しぶがき銀行藤原台支店がひっそりと建っています。

 岡場駅前には三井住友銀行藤原台支店を筆頭に、みなと銀行、但馬銀行、中兵庫信用金庫、兵庫信用金庫、日進信用金庫、さらにはJA兵庫六甲と強豪がひしめき、ニュータウンの顧客の預金と住宅ローン獲得で熾烈な争いをしており、しぶがき銀行はその立地からも第二地方銀行といえど苦戦を強いられ、支店長は本店への毎日の営業報告に肝を冷やしています。新規開拓が進まない中、せめて不良債権の発生だけは避けたいと非常に消極的になっており、定年まであと2年を何とか無事に焦げ付きなく過ごすことが最大の関心事です。

 来店した川西達郎は、融資窓口の担当者に支店長を呼んでくれと告げて応接室に通されましたが、支店長に「適当にあしらえ」と命じられた次長だけが、応接室に顔を出しました。

「何や、支店長おらへんのかいな。きのう電話したやないか。」と、川西達郎はすでに戦闘モードです。
「えらいすんまへん。急に本店の重要な会議が入ったもんで。話は聞いてますから。」と、赤ら顔の次長が答えます。腹回りだけは重役級です。
「ほな聞くけど、定期を下ろしたら、融資を引き上げるんかい。」と、次長の目を睨んで言います。
「いやいや、川西さん、そうやないんですわ。定期預金は川西さん個人の分ですから、それと会社への融資とは別の話ですわ。」と、なかなかやんわりと受け流します。

「私どもが懸念してますんは、失礼ですが、川西さんのお年なんですわ。」と、痛いところを突いてきます。次長、なかなかのタヌキです。
「どうしても、ご年齢を考えると、追加融資や更新して大丈夫かなと心配してしまうんですわ。いや、支店長は今まで通りにしたいと思っとるんですが、本店がウンと言わへんのです。」と、言ってチラリと川西達郎の顔色をうかがいます。

「あのー、息子さんは確か去年大学を卒業なさって、東京の上場会社で修行されておられると伺ってますが、もうそろそろ後を継ぐ予定にはなってはらへんのですか。」
「息子さんが代表者ということやったら、本店にも強く言えるんですが。」と言って、川西達郎が言い返せないのを確認します。

「とりあえず、追加融資は申し訳ないです。それと、来月の期限の分の返済については、何とかもう一年の延長を本店に掛け合いますが、何もなしでは言いにくいんで、どうですやろ、また定期預金をしてもらえまへんか。」
と、冷静に考えれば論理が無茶苦茶なことを次長はサラリと言ってのけました。

 川西達郎が窯元清和に戻ったのは、午後2時を過ぎていました。
「おかえり~!駅から電話くれたら迎えに行ったのに!お昼ごはんは外で食べたん?」
と、大きな声で丸い奥さん花子さんは言って、主人の顔色の悪さに気づきました。
「お父ちゃん、あかんかったん?」

 黙って、デスクチェアに座り、花子さんの注いだ玉露を一口飲んで、達郎はようやく重い口を開けました。
「明日、東京へ行ってくる。とりあえず一年の期限のジャンプ(更新)はできるが、あと一年以内に俊夫に後を継がさんと、終わりや。」

解説

 融資を受ける際の申込み年齢が重視されることを学びましょう。

 融資と年齢