4.定年退職ー坂元八造の場合

東京都足立区荒川の土手沿いの区立中学校の校庭に生徒が整列しています。少子化の影響か団塊の世代には考えられないほどの少ない人数で朝礼が行われています。
朝礼台に立ち最後の挨拶をし、その後同僚に見送られて職員室を後にした国語教師の坂元八造は、学校へ続く土手を逆に歩きながら
「ああ、もうここを歩いて中学へ通勤することはないんだな」としみじみとこの38年間の教師生活を振り返ります。
「めでたくもありめでたくもなし、か」
坂元は駅前のカフェでいちごのショートケーキを2個買いました。初めての奥さんとのデートで、ここのショートケーキを食べたことを思い出したのです。
「あの時は、緊張して会話が続かなくて、3個食べたらトイレで吐いたな。嫁さんが背中をさすってくれて、ああこの女と結婚せにゃと思ったんだよな。」
当時はバタークリームのケーキにクリーム製のピンク色のバラと真っ赤なドレンチェリーが乗っていて、アラザン(銀色の粒)が3粒ついてました。当時の廉価なバタークリームは食べ過ぎると吐き気を催したものでした。
「ただいま」と長年住んだ公団賃貸住宅の自宅に入ると、奥さんが台所のテーブルでノートを広げて計算しています。
「おい、ケーキ買ってきたぞ。」
「あっ、お帰り。」
奥さんは立ち上がり改まって言いました。
「八造さん、お疲れさまでした。」
「それはお前さんも同じじゃないか。」
そうです、奥さんも市外の中学校の保健教諭を定年退職したのでした。
「何やってんだ。」
「えへへ、退職金の使い道を考えてたの。」
「なんだ、もうそんなこと考えてるのか。で、いくら位あるんだ。」
「そうねえ、二人合わせると 5,000万円ちょっとかしら。」
「ほお、結構あんな。もらったら全部出してテーブルに積んでみるか。」
「何バカなこと言ってんのよ。そんな積み上げるほどはないわよ。それよか、一八(かずや)と住みたい。家を買おうよ。」
妻は長男夫婦との同居を長く望んでいたのです。これまでお嫁さんとも仲良くやっていたようです。
「そんな、家買ったら一発でなくなっちょうよ。」
「大丈夫よ、半分出して、後は親子ローンにすれば。」
そういえば日曜日にチラシを見比べては住宅展示場に行きたいとか言ってたっけ。
「2世帯住宅にするの。」
「いくらするんだ?」
「あれこれ入れて全部で 6,000万円よ!」
「ひえ~!」
坂元は早く再就職先を探そうと思いました。とりあえず彼は長い髪を切ることにしました。
解説
ほとんどの世帯はマス層かアッパーマス層に分類されます。具体的には全世帯の91.8%です。純金融資産保有額によるマス層とアッパーマス層のライフプランニングの立て方について学びましょう。
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