7.ファミリーオフィス銀座の面接

オフィス会議室

 坂元は生まれて初めて自分のためにハローワークに来ました。教師の頃は卒業生の就職あっせんをお願いしに何度も来たことはあったのですが、恥ずかしいと思ったことはありませんでした。今回は知り合いに会ったらどうしようとオドオドし、「六十の手習い」ではなく「六十の恥じらい」を持って求職の登録をしたのでした。それから2~3日に一度は検索パソコンの画面で求人票を見に来ていますが、なかなかこれという求人は見つからず、応募しても書類選考で落とされ続け、あっという間に5ヶ月経ちました。

 見かねた妻が大学名誉教授をしている父に相談し、教え子が開業するので人手が要るという話を頂き、面接を受けることになりました。

 銀座四丁目の和光時計台の近くの昭和レトロな雑居ビルの3階に、玄関横にのみ看板を掲げた事務所があります。事務所内の会議室で坂元は一人面接を待っていました。ホワイトで縦のピンストライプが入った壁、光沢のあるアイボリーのフロアタイルで上品で明るい色調の部屋です。とても昭和レトロな雑居ビルの中とは思えません。室内には会議用の広い木目調のテーブルが置かれ、入口と反対側の壁際にホワイトボードがあります。テーブルの上にはウエッジウッドのティーカップの紅茶だけが置かれています。髪を後ろでまとめた感じの良い秘書らしい女性が案内し、出してくれたものです。

 ノックが2回鳴った後、一人の男が入室して来ました。ダークなダブルのスーツ姿で、イタリア物か派手なネクタイをしています。坂元は「自分より10歳ほど若いくらいだろうか」と思いました。整った顔立ちに黒い髪はワックスできれいになでつけられたようです。身長はどうみても180㎝以上あり、がっしりした体格ですが、ドアから歩いてきて「失礼」と言って座る姿は銀行の支店長のようでそれよりも上品な雰囲気があります。坂元は不思議なオーラを感じました。

「坂元八造さんですね。履歴書は拝見させていただきました。」
「当社のお客様には会社を経営しておられる方が多いのです。その中にはご子息の後継者問題でお悩みの方もおられます。あなたが教師として長年身につけてこられた知識と経験は、この課題を解決するのに必ず役に立つことでしょう。」
と、言って彼は坂元の目を見てニッコリしました。

 坂元は定年退職後かなり弱気になっていたのが表情に出ていないか心配しました。だが、彼はそのまま話を続けました。

「これまで真摯に生きてこられた、それはあなたの人間的魅力となっています。初対面の方でもあなたには安心感を抱き、信頼されることでしょう。それがこの仕事では大切なことなのです。我々は顧客の全てを知り、顧客が家族にも話せない内容の秘密も守り、執事のように完璧にこなさなければなりません。坂元さんにはそのために尽力し、秘密を守る覚悟はおありですか。」

 坂元は身を前に乗り出し、両目を見開いて言いました。
「ぜひ、やらせてください。私にできることはやります。どうか、お願いします。」と自然に頭を下げました。

解説

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